〇樹脂フィルムの開発では、
【この材料をフィルムにしたい】
【新しい添加剤を配合したフィルムを評価したい】
といった場面が数多くあります。
しかし、実施にTダイフィルム成形を行ってみると、
- フィルムの厚みが均一にならない
- 表面にスジやムラが発生する
- フィルムがカールする
- ブロッキングが発生する
- フィッシュアイや異物が見られる
- フィルムが安定して引き取れない
- 成形条件によって物性が大きく変わる
といった問題に直面する事があります。
これらの問題は、単純に【成形温度を上げれば解決する】
というものではありません。
樹脂の種類、分子量、添加剤、溶融粘度、Tダイ温度
押出量、引取速度、冷却条件 等、様々な要因が
相互に影響しています。
本記事では、これからフィルム開発に携わる担当者が
押さえておきたい、Tダイフィルム成形の基本的な考え方と
成形条件、不良発生の原因について分かりやすく解説します。
■Tダイフィルム成形とは?
〇Tダイフィルム成形とは、押出機で溶融させた樹脂を
T字型のダイ(Tダイ)から薄いシート状に押し出し
冷却・引取する事でふぃうr無を成形する方法です。
基本的な工程は、
①樹脂投入
↓
②押出機で溶融・混練
↓
③Tダイから吐出
↓
④冷却
↓
⑤引取
↓
⑥巻き取り
という流れになります。
Tダイフィルム成形は、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)
ポリアミド(PA)、ポリエステル系樹脂、エンジニアリングプラスチック
等、様々な樹脂のフィルム開発に利用されています。
特に研究開発では、量産設備を使用する前段階として
少量の材料でフィルム化出来る試作設備が重要になります。
■Tダイフィルム成形で重要な5つの条件
〇Tダイフィルム成形では、主に以下の条件を総合的に
考える必要があります。
①樹脂温度
〇樹脂を適切に溶融させる為の温度です。
温度が低すぎると、
- 未溶融
- 圧力上昇
- 吐出不安定
- 表面荒れ
等の原因となり、一方で温度が高すぎると、
- 樹脂の熱劣化
- 黄変
- 分子量低下
- ガス発生
- 焦げ、異物
等に繋がる可能性があります。
したがって、【高温にすれば流れやすくなる】という
考え方だけで条件を決めるのは危険です。
②吐出量
〇単位時間当たりに押し出す樹脂量です。
押出量が変わると、フィルムの厚みや成形安定性も
変化します。
特に試作では、押出量を一定にしたうえで引取速度を
変える事で、狙った厚みへ調整する方法が基本となります。
③引取速度
〇Tダイから出てきた溶融樹脂を、どの程度の速度で
引き取るかという条件です。
一般的には、
【引取速度を早くする → フィルムは薄くなる】
【引取速度を遅くする → フィルムは厚くなる】
という関係になります。
ただし、単純な比例関係ではありません。
樹脂の伸張性や溶融粘度、冷却条件などによっても
変化する為、実際の成形では試作しながら最適条件を探します。
④Tダイ温度
〇Tダイ内部を流れる樹脂の温度も非常に重要です。
Tダイ内で樹脂温度にバラつきがあると、流動状態が
変化し、フィルムの幅方向に厚みムラが発生する可能性があります。
また、Tダイ温度が低すぎる場合には吐出抵抗が大きくなり
高すぎる場合には熱劣化のリスクが高くなります。
⑤冷却温度
〇Tダイから出た溶融フィルムは、そのままでは形状が安定しません。
その為、冷却ロールなどを使用してフィルムを冷却・固化させます。
冷却条件が変わると、
- 結晶化状態
- 透明性
- 収縮
- カール
- 表面状態
- フィルム物性
等にも影響する事があります。
■フィルムの厚みは何で決まる?
〇フィルム開発で特に重要なのが、【厚み】です。
基本的には、
【押出量×引取速度×樹脂密度】
等の関係によってフィルム厚みが決まります。
例えば、同じ押出量で引取速度を上げれば、単位長さあたりに
使用される樹脂量が減る為、フィルムは薄くなります。
ただし、実際の成形では、
- ダイリップの状態
- 樹脂温度
- ネックイン
- 冷却状態
- 引取ロール
- 樹脂の伸長特性
等が影響する為、計算値と実測値が完全に一致するとは限りません。
その為、開発段階では実測による厚み確認が非常に重要です。
■幅方向の厚みムラが発生する原因
〇Tダイフィルム成形でよく問題になるのが、【厚みムラ】です。
特に幅方向に厚みが変化する場合には、以下のような
原因が考えられます。
・Tダイ内部の流動バランス
〇Tダイ内部で樹脂が均一に流れていない場合、幅方向の
吐出量に差が生じます。
・ダイリップの隙間
〇ダイリップのクリアランスが均一でない場合も、
厚みムラに繋がります。
・樹脂温度のバラつき
〇温度によって樹脂粘度が変化する為、幅方向の温度差が
流量差に繋がる場合があります。
・引取条件
〇引取ロールの状態や速度変動もフィルムの厚みに影響します。
したがって、厚みムラが発生した場合は、単純にTダイだけを
疑うのではなく、温度・押出量・引取速度・冷却条件を含めて
総合的に確認する事が重要です。
■Tダイフィルム成形でよくある不良
〇フィルム開発では、様々な成形不良が発生します。
代表的なものを整理すると以下のようになります。
| 不良内容 | 主な原因 |
| 厚みムラ | ダイ流動、温度、引取条件 等 |
| スジ | ダイリップ、異物、樹脂劣化 等 |
| フィッシュアイ | 未溶融物、異物、ゲル 等 |
| ブロッキング | 冷却不足、樹脂特性、添加剤 等 |
| カール | 冷却、収縮、結晶化の不均一 |
| シワ | 引取、冷却、張力の不安定 |
| 表面荒れ | 樹脂温度、せん断、吐出状態 等 |
| 気泡 | 水分、揮発成分、空気の巻き込み 等 |
| 黄変・変色 | 熱劣化、滞留時間 等 |
重要なのは、一つの不良に対して原因が一つとは限らない
という事です。
例えば【フィルムがカールした】という場合でも、
冷却条件だけでなく、樹脂の結晶化、フィルムの厚み、引取張力、
表裏の温度差 等が複合的に関係している場合があります。
■フィルム成形前の【原料の状態】も重要
〇フィルム成形では、成形条件ばかりに目を行きがちですが
実は原料の状態も非常に重要です。
特に注意したいのが【水分】です。
PAやPET 等、吸湿しやすい樹脂では、乾燥が不十分な状態で成形すると、
- 気泡
- 表面荒れ
- 銀条
- 物性低下
- 分子量低下
等が発生する可能性があります。
また、樹脂ペレットに異物や未溶融物が含まれている場合
フィルム上でそのまま欠陥として現れる事があります。
その為、フィルム成形では
【材料→乾燥→押出→Tダイ→冷却→引取】
という工程全体で考える事が重要です。
■添加剤・フィラーを配合したフィルムでは注意が必要
〇新規材料の開発では、樹脂だけでなく
- 酸化防止剤
- 滑剤
- 帯電防止剤
- 相溶化剤
- 無機フィラー
- ガラス繊維
- シリカ
- タルク
- 炭酸カルシウム
- 難燃剤
等を配合するケースがあります。
この場合、添加剤やフィラーの配合によって樹脂の
流動性や粘度が変化します。
例えばフィラーを大量に添加すると、溶融粘度が上昇して
押出圧力が高くなる場合があります。
また、分散が不十分だとフィルム表面に異物状の欠陥が
発生する事があります。
つまり、
コンパウンド条件とフィルム成形条件は別々に考えるのではなく
材料開発全体として考える必要があります。
■フィルム開発では、【条件を記録する】事が重要。
〇試作開発では、単に【フィルムが出来た】で終わらせては
いけません。
次回の試作に繋げる為には、成形条件を出来るだけ細かく
記録します。
- 使用樹脂
- 配合比
- 原料乾燥条件
- 温度条件
- Tダイ温度
- スクリュー回転数
- 押出量
- 押出圧力
- 引取速度
- 冷却条件
- フィルム厚み
- フィルム幅
- 外観
- 透明性
- 不良発生状況
等です。
これらを記録しておく事で、
【前回は220℃で安定した】
【引取速度を20%上げたら厚みが安定した】
【乾燥条件を変更したら気泡が減った】
というように、条件と結果の関係を整理出来ます。
■開発担当者が覚えておきたい【条件変更の考え方】
〇フィルム成形でトラブルが発生した場合、一度に複数の
条件を変更するのはお勧めできません。
例えば、
【温度を10℃上げる】
【スクリュー回転数を上げる】
【引取速度を変更する】
【冷却条件も変更する】
というように一度に変更してしまうと、何が原因で改善したか
わからなくなります。
基本的には、
【1回の試作で変更する条件を出来るだけ限定する】
事が重要です。
そして、
【条件→成形状態→フィルム物性】
の関係を一つずつ確認していきます。
これはフィルム開発を効率的に進める為に非常に重要な
考え方です。
■Tダイフィルム成形は【材料×設備×条件】で決まる
〇Tダイフィルム成形を理解する上で、最も重要なのは
材料だけでも、設備だけでも、成形条件だけでも決まらない
ということです。
例えば同じPPでも
- 分子量
- MFR
- 添加剤
- フィラー
- グレード
が違えば、適切な成形条件も変わります。
また同じ材料でも
- 押出機
- スクリュー形状
- L/D
- Tダイ
- ダイ幅
- 冷却ロール
- 引取機
等の設備仕様によって最適条件は変化します。
詰まり、
【材料×設備×成形条件】
の3つセットで考える事が、安定したフィルム成形に繋がります。
■試作段階では【最適条件を探す】事が重要
〇量産では、決められた条件を安定して維持する事が
重要です。
一方、研究開発・試作では、
【どの条件なら、この材料が最も良いフィルムになるのか?】
を探すことが重要になります。
例えば、
- 温度を変える
- 押出量を変える
- 引取速度を変える
- 冷却条件を変える
- フィラー量を変える
等の条件を君合わせながら、フィルムの外観・厚み・物性
を評価します。
このような試作を繰り返す事で、その材料に適した
成形条件が見えてきます。
■まとめ
〇Tダイフィルム成形は。一見すると
【樹脂を溶かして薄く押し出すだけ】に見えます。
しかし実際には、樹脂特性・原料状態・押出量・Tダイ・引取速度
冷却条件 等、多くの要素が複雑に関係しています。
特に、開発担当者が押さえておきたいポイントは以下の5つです。
■Tダイフィルム成形の重要ポイント
①樹脂温度を適切に管理する
②押出量と引取速度の関係を理解する
③Tダイ・冷却条件による厚みや外観への影響を考える
④原料の乾燥・分散・異物管理を徹底する
⑤成形条件と結果を記録し、次の試作に繋げる
そして最も重要なのは、
【材料×設備×成形条件】
を一体として考える事です。
新しい樹脂や添加剤、フィラーを使ったフィルム開発では
既存材料と同じ条件で成形できるとは限りません。
だからこそ、試作段階で様々な条件を検証し、その材料に
適した成形条件を見つける事が、量産化への重要な第一歩となります。
Tダイフィルム成形は、材料の可能性を【実際のフィルム】という
形に変える為の重要な技術です。
材料開発と成形技術を組み合わせる事で、新しい機能性フィルムや
高付加価値フィルムの開発繋がります。
