〇【PP(ポリプロピレン)とPA(ポリアミド)は混ぜられるのか?」
樹脂コンパウンドや新素材開発の現場では、
このような相談がよくあります。
PPは軽量で、耐薬品性や成形性に優れ、比較的低コストな汎用樹脂です。
一方、PAは機械的特性、耐熱性、耐摩耗性 等に優れたエンジニアリングプラスチックです。
それぞれ異なる特徴を持つ為、PPとPAをブレンドする事で両方の長所を
活かした材料を作りたいという考え方があります。
しかし、PPとPAは基本的には相溶しにくい樹脂の組み合わせです。
そのまま混ぜただけでは、PPとPAが十分に一体化せず
界面接着が弱くなったり、PAが粗大なドメインとして分散したりする事で
期待した機械特性が得られない場合があります。
研究でも、PP/PA6ブレンドは非相溶系として扱われ、相溶化剤によって
界面接着や分散状態を改善する方法が検討されています。
では、なぜPPとPAは相溶しにくいのでしょうか?
そして、実際にPPとPAをコンパウンドする場合、どのような相溶化剤や
混練条件が必要なのでしょうか?
この記事では、PPとPAの相溶性について、樹脂の性質から
二軸混練、相溶化剤の選び方まで詳しく解説します。
■PPとPAは相溶する?
〇結論から言えば、PPとPAは基本的にはそのままでは相溶しにくい
組み合わせです。
特に、PP/PA6系では、両者は非相溶系として知られています。
これは、PPとPAの分子構造や極性が大きく異なる為です。
PPは代表的な非極性樹脂です、
一方、PAはアミド結合を持つ極性の高い樹脂です。
つまり、
PP=非極性
PA=極性
という大きな違いがあります。
この性質の違いによって、PPとPAを溶融状態で混ぜても
分子レベルで均一に混ぜりにくくなります。
その結果、PPを母材として場合には、PAが細かな粒子やドメインとして
分散する構造になりやすくなります。
実際のPP/PA6ブレンドでは、相溶化剤を使用しない場合
界面接着が弱く、高い界面張力によって機械特性が低下しやすい
事が報告されています。
■【混ざる】と【相溶する】は違う
〇ここは樹脂コンパウンドを考える上で非常に重要です。
PPとPAを二軸押出機に投入すれば、見た目としては混ざった
ペレットをつくる事が出来ます。
しかし、【混ざった】=【相溶した】ではありません。
例えば、PPの中にPAが細かな粒子として均一に分散していても
PPとPAの界面で十分な接着が得られていなければ、力が加わった時に
界面から破壊が進む可能性があります。
重要なのは、
- PPとPAがどの程度細かく分散しているか
- PPとPAの界面接着がどの程度あるか
- PAドメインが再凝集していないか
- 混練後のモルフォロジーが安定しているか
という点です。
つまり、PP/PAブレンドでは、相溶性だけでなく
【分散性】と【界面接着】をセットで考える事が重要です。
■なぜPPとPAは相溶しにくいのか?
〇大きな理由は、両者の極性の違いです。
PPは炭化水素を主体とした非極性の樹脂です。
一方、PAにはアミド基が存在し、分子間で強い相互作用を
形成しやすいという特徴があります。
その為、PPとPAを単純に混ぜても
【PPとPAの界面を安定化する力が不足する】
という問題が起こります。
イメージとしては、
【PP同士はPP同士で集まりやすい】
【PA同士はPA同士で集まりやすい】
という状態です。
この為、PPとPAを単純に溶融混錬すると、PAがPP中に
分散した海島構造のようなモルフォロジーを形成する事があります。
ここで重要になるのが相溶化剤です。
■PPとPAの相溶性を改善する【相溶化剤】
〇PPとPAを実用的にブレンドする場合、代表的な方法の一つが
【PP-g-MA】(無水マイレン酸変性PP)を使用する方法です。
PP-g-MAはPPの骨格に無水マイレン酸(MAH)を導入した材料です。
PP部分にはPPとの親和性を持ち、無水マイレン酸由来の
官能基はPA側と反応・相互作用する事が出来ます。
その結果、【PP側←PP-g-MA→PA側】という形で
PPとPAの界面を繋ぐ役割を果たします。
PP/PA6系では、PP-g-MAを添加する事で界面に反応生成物が形成され
PA6の粒子径や界面状態が変化する事が報告されています。
つまり、相溶化剤は単純に【PPとPAを混ぜる添加剤】ではなく
PPとPAの間に存在する界面を安定化する役割を持っていると
考えるとわかりやすいでしょう。
■PP-g-MAによって何が変わる?
〇PPとPAをそのまま混練すると、PAのドメインが大きく
なったり、界面接着が弱くなったりする場合があります。
PP-g-MAを使用すると、PPとPAの界面に相溶化剤が作用し、
- PAドメインが微細化
- PAの分散性向上
- PP/PA界面の接着性向上
- 相分離状態の安定化
- 機械特性の改善
等が期待できます。
実際にPP/PA6系では、PP-g-MAの添加によって分散状態が
改善され、機械特性が向上する事が報告されています。
ただし、【相溶化剤を増やせば増やすほど良い】
というわけではありません。
相溶化剤の種類や添加量、PP/PAの配合比、混練条件によって
最適な状態は変わります。
■PPとPAを二軸混練する場合のポイント
〇PP/PAブレンドでは、相溶化剤だけでなく
二軸混練機による分散・混練条件も非常に重要です。
特に確認したいのが、
①混練温度
〇PPとPAでは融点が異なります。
代表的なPA6では融点が約220℃である一方、
PPはグレードによりますが、概ね160℃~170℃付近が
代表的な融点です。
その為、PPだけを基準に温度設定すると、PAが十分に
溶融しない可能性があります。
一方で、PAに合わせて必要以上に高温にすると、PPの熱履歴や
PAの熱劣化などにも注意が必要になります。
従って、【両方が十分に溶融し、尚且つ熱劣化を抑えられる温度帯】
を考える必要があります。
②スクリュー回転数
〇回転数を上げると、一般的にせん断・混練作用を強くできます。
PP中のPAドメインを微細化するという観点では、
適切なせん断を与える事が重要です。
しかし、回転数を上げれば必ず良いわけではありません。
過度なせん断や長い滞留時間は、樹脂の温度上昇や熱履歴の
増加に繋がる可能性があります。
その為、【回転数×吐出量×スクリュー構成】を
セットで考える必要があります。
③スクリュー構成
〇PP/PAのような非相溶系では、分散混練をどこで
どの程度行うかが重要になります。
例えば、
- ニーディングディスク
- ミキシングエレメント
- リバースエレメント
- 分散混練ゾーン
等を組み合わせ、PAをPP中へ効率よく分散させる
設計が考えられます。
ただし、強い混練を入れればよいというものではありません。
【分散性と樹脂への熱・せん断履歴のバランス】
が重要です。
■PP/PAブレンドでは【PAドメイン】が重要
〇例えばPPを母材としてPAを少量添加する場合は、
PP=連続相(マトリックス)
PA=分散相
という構造を形成する事があります。
この時重要なのがPAのドメインサイズです。
PAが大きな塊になっていると、PPとの界面が弱点となりやすくなります。
一方、PAが細かく均一に分散され、さらに界面接着が改善されていれば
材料としての性能を引き出しやすくなります。
研究では、相溶化剤によってPP/PA6ブレンドの分散状態や界面接着が
改善されることが確認されています。
つまり、PP/PAコンパウンドでは、
【何%入れたか】ではなく、【どのようなモルフォロジーになったか】
を見る事が非常に重要です。
■PAの種類によっても考え方は変わる
〇【PA】と一括りにしても、PA6、PA66、PA12 等
様々な種類があります。
例えば、
- PA6
- PA66
- PA12
- PA610
- PA612
- 半芳香族PA
等があります。
その為、【PP+PAなら全て同じ条件で混錬できる】
とは考えない方がよいでしょう。
PAの種類によって、
- 融点
- 吸水性
- 粘度
- 末端基
- 熱安定性
- 結晶性
- 機械特性
等が異なります。
特にPAは吸湿しやすい為、コンパウンド前の乾燥状態が重要です。
水分が残った状態で高温の溶融混練を行うと、材料の物性や
成形安定性に影響する可能性があります。
■PPとPAの相溶化剤には【PP-g-MA】以外もある
〇PP-g-MAは代表的な選択肢ですが、それだけではありません。
研究では、
- 無水マイレン酸(MA)系
- アクリル酸系
- グリシジルメタクリレート(GMA)系
- MA変性SEBS等の反応性エラストマー
等も検討されています。
例えばMA変性SEBSは、PP/PA系の界面に存在して
PPとPAの間を取り持つ事で、相溶化に寄与する事が報告されています。
従って、相溶化剤を選ぶ時に
【PPとPAを混ぜるからPP-g-MA】と単純に決めるのではなく、
- PP/PAの配合比
- PAの種類
- 必要な機械特性
- 耐衝撃性
- 流動性
- コスト
- 成型方法
等を考慮する必要があります。
■PP/PAコンパウンドで起こりやすい問題
〇PPとPAのブレンドでは、以下のような問題が発生する事があります。
・強度が期待ほど出ない
〇PPとPAの界面接着が弱いと、外力が加わった際に界面から
破壊が進みやすくなります。
・PAが粗大化する
〇混練条件が適切でないと、PAが大きなドメインとなって
分散し、物性低下に繋がる場合がありいます。
・外観が安定しない
〇相分離状態やドメインサイズによって、外観や表面状態が
変化する事があります。
・射出成形時に物性が安定しない
〇コンパウンド時の分散状態が安定していないと、成形品毎の
物性のバラつきに可能性があります。
・吸湿による物性変化
〇PAは吸湿性がある為、保管状態や乾燥条件も重要になります。
■PPとPAを混ぜる時に重要なのは【相溶化+分散】
〇PP/PAブレンドを成功させる為には、
①相溶化
②分散
③界面接着
の3つをセットで考える事が重要です。
相溶化剤によってPPとPAの界面を安定化させても、混練による
分散が不十分なら、PAが粗大なドメインとして残る可能性があります。
逆に、強いせん断んを与えてPAを細かくしても、界面接着が
弱ければ十分な性能を発揮できない可能性があります。
その為、
【相溶化剤×スクリュー構成×温度×回転数×吐出量】
を総合的に最適化する必要があります。
これは二軸押出による樹脂コンパウンドの重要なポイントです。
■PP/PAの試作では何を評価すればよい?
〇PPとPAのブレンドを試作する場合、単純にペレットが
できたかだけを見るのではなく、以下の評価を組み合わせると
効果的です。
・外観確認
〇ペレットや成形品の色ムラ・フィッシュアイ、未分散物
等を確認します。
・MFR、流動性
〇コンパウンド前後で流動性がどのように変化したか
確認します。
・引張強度、伸び
〇PP/PA間の界面接着改善を確認する為に重要な評価項目です。
・衝撃強度
〇相溶化剤や分散状態による変化を確認できます。
・SEM観察
〇破断面などを確認する事で、PAドメインの大きさや
分散状態、界面の状態を確認できます。
・吸水性
〇PAを含む材料では、水分による物性変化も確認しておく
事が重要です。
■PPとPAの相溶性を高める為の実務的な考え方
〇PP/PAコンパウンドを行う場合、最初から一つの条件に
決め打ちするのではなく、条件を振って比較する方法が有効です。
例えば、
①PP/PA配合比
↓
②相溶化剤の種類
↓
③相溶化剤添加量
↓
④温度条件
↓
⑤スクリュー回転数
↓
⑥吐出量
↓
⑦分散状態・物性評価
という順番で検討していきます。
特に重要なのは、【相溶化剤を入れたら終わり】ではない
ということです。
PP/PAブレンドでは、相溶化剤が界面で機能する為の
混練条件も重要になります。
■まとめ
【PPとPAはそのままでは相溶しにくいが、相溶化剤によって実用化出来る】
〇PPとPAは、それぞれ優れた特徴を持つ樹脂ですが
極性の違いが大きい為、そのままでは相溶しにくい組み合わせです。
特にPP/PA6系では、非相溶系として扱われており
界面接着や分散性を改善する為に相溶化剤が利用されます。
代表的な方法が、【PP-g-MA】などの反応性相溶化剤を利用する方法です。
相溶化剤によってPPとPAの界面を安定化し、二軸混練によって
PAを微細かつ均一に分散させる事で、PPとPAそれぞれの特性を
組み合わせた材料設計が可能になります。
PP/PAコンパウンドでは、
【相溶性】だけを満つのではなく、
【相溶化剤・分散性・界面接着・スクリュー構成・温度・回転数・吐出量】
を総合的に考える事が重要です。
樹脂コンパウンドでは、単に【混ぜる】ではなく、
【どのようなモルフォロジーをつくるかまでを考え



