樹脂コンパウンドでは、複数の樹脂を混ぜ合わせる事で
単一の樹脂では得られない特性を持つ材料を開発する
事があります。
しかし、【樹脂同士を混ぜれば、均一な材料になる】
わけではありません。
樹脂の組み合わせによっては相溶性が低く、混錬しても
樹脂同士がうまく馴染まず、成形品の強度低下、剥離、外観不良
物性のバラつきなどに繋がる事があります。
このような場合に重要になるのが、【相溶化剤】です。
相溶化剤は、相性の悪い樹脂同士の界面に作用し、樹脂同士が
より安定した状態で分散できるようにする材料です。
本記事では、相溶化剤の基本的な仕組みから、樹脂コンパウンドにおける
役割、種類、選び方、添加時の注意点まで、開発担当者・技術担当者向けに
分かりやすく解説します。
■相溶化剤とは?
〇相溶化剤とは、相溶性の低い異なる樹脂を混ぜ合わせる際に
樹脂同士の界面に作用して、両者の親和性や分散状態を
改善する添加剤です。
例えば、樹脂Aと樹脂Bを混ぜた場合、
相溶性が良い場合:
【樹脂A+樹脂B】→比較的均一に混ぜる。
一方で、相溶性が悪いばあ、
【樹脂A+樹脂B】
→AとBが分離しやすい
→大きなドメインが形成される
→強度外観・安定性 等に悪影響
となる事があります。
相溶化剤は、この【樹脂Aと樹脂Bの境界(界面)】に働きかける事で
ブレンド系の安定化を目指します。
■なぜ樹脂コンパウンドに相溶化剤が必要なのか?
〇樹脂コンパウンドでは、
- PP+PA
- PP+EVOH
- PE+PA
- ABS+PC
- PLA+他樹脂
- 樹脂+エラストマー
- 樹脂+フィラー
等、様々な材料を組み合わせます。
しかし、異なる材料を混ぜるほど【混ざりやすさ】だけでなく
【混ざった後に安定しているか】が重要になります。
相溶性が悪い材料では、例えば以下のような問題が
発生する可能性があります。
主なトラブル
- 引張強度、衝撃強度の低下
- 層間剥離
- 外観不良
- フィッシュアイ
- 分散不良
- 物性のバラつき
- 成形時の流動性変化
- 長期的な界面剥離
特に重要なのが、異なる樹脂の界面です。
樹脂Aと樹脂Bがうまく接着していなければ、外部の力が
加わった時に、その界面が弱点になる可能性があります。
相溶化剤は、この界面の状態を改善する為に使用されます。
■相溶化剤は【樹脂を完全に溶かす薬】ではない
〇ここは非常に重要なポイントです。
【相溶化剤を入れれば、どんな樹脂でも完全に混ざる】
というわけではありません。
相溶化剤の目的は、単純に2種類の樹脂を【完全に一つにする】
事ではなく、【樹脂同士の界面状態を改善し、分散状態を安定させる】
事にあります。
例えば、
相溶性が悪い→大きな分散相が形成される→相溶化剤を添加
→界面の親和性が改善→分散相が微細化・安定化
という方向を狙います。
その為、相溶化剤の選定だけでなく、混練温度・スクリュー構成
回転数・供給量・滞留時間 等のコンパウンド条件も非常に重要になります。
■相溶化剤の代表的な種類
〇相溶化剤には様々な種類があります。
代表的な考え方としては、以下のように整理出来ます。
①無水マイレン酸変性ポリマー
〇樹脂コンパウンドでは非常によく知られているタイプです。
例えば、
- MAH-g-PP
- MAH-g-PE
等があります。
【MAH】は無水マイレン酸を意味します。
無水マイレン酸などの官能基を持たせたポリマーを利用する事で
異なる樹脂や極性材料との界面で相互作用を持たせる事が出来ます。
特に、【ポリオレフィン+極性材料】のような組み合わせでは
重要な選択肢になります。
②ブロック共重合体・グラフト共重合体
〇異なる性質を持つ成分を一つの分子内に持たせる事で
異なる樹脂相の両面に作用しやすくしたタイプです。
例えば、
樹脂Aと親和性のある部分+樹脂Bと親和性のある部分
を持つことで、両者の界面に存在しやすくなります。
③反応性相溶化剤
〇樹脂中の官能基などと反応する事で、界面の結合性を
改善するタイプです。
例えば、
- エポキシ系
- 無水物系
- カルボキシル基系
- その他の反応性官能基を持つ材料
等があります。
ただし、反応性を利用する場合には、反応温度・滞留時間
水分・添加量 等の条件管理が重要になります。
■相溶化剤を選ぶときのポイント
〇相溶化剤を選定する時に、単純に【この相溶化剤が有名だから】
という理由で決めるのはお勧めできません。
まず確認したいのが、
【何と何を混ぜるのか?】です。
例えば、PP+PAなのか、PP+EVOHなのか、
PP+エラストマーなのか、によって適した相溶化剤は変わります。
さらに、
- 使用する樹脂グレード
- MFR、粘度
- 極性
- 官能基
- 添加量
- 成形温度
- 最終用途
等も考慮する必要があります。
■相溶化剤の添加量が多ければいいわけではない
〇相溶化剤を使用する時にありがちな誤解が
【相溶性が悪いなら、相溶化剤をたくさん入れればいい】
という考え方です。
実際には、添加量が多ければ必ず性能が向上するとは
限りません。
過剰添加によって、
- コスト上昇
- 流動性変化
- 機械特性への影響
- 熱安定性への影響
- 外観への影響
- 本来の樹脂特性の変化
等が起こる可能性があります。
その為、0%→少量→中間量→高添加量
のように添加量を振りながら、物性や分散状態を比較する事が重要です。
■相溶化剤の効果は【混錬条件】にも左右される
〇相溶化剤を添加しただけで、必ず良好なコンパウンドが
出来るわけではありません。
二軸押出機などでコンパウンドする場合、
- シリンダー温度
- スクリュー回転数
- 供給量
- 滞留時間
- 混練部の構成
- ニーディングディスク
- 逆ねじ
- 真空ベント
- 原料の乾燥状態
等が結果に影響します。
特に重要なのが、
【相溶化剤を入れた状態で、どれだけ適切に分散・混練出来ているか】
です。
相溶化剤の種類が適切でも、混練が不十分であれば期待した効果が
得られない場合があります。
逆に、適度なせん断や高温条件によって樹脂が劣化する可能性もあります。
■相溶化剤を選ぶ時は【最終物性】で評価する
〇相溶化剤の評価では、単純に【きれいに混ぜったか】
だけを見るのでは不十分です。
最終製品に必要な性能を確認する必要があります。
例えば、
〇機械特性
- 引張強度
- 伸び
- 曲げ強度
- 衝撃強度
〇外観
- フィッシュアイ
- 白化
- 表面荒れ
- 光沢
- 層状剥離
〇成形性
- 流動性
- 押出安定性
- 圧力変動
- トルク
〇耐久性
- 耐熱性
- 耐水性
- 耐薬品性
- 長期安定性
等です。
つまり、【混ざった】=【良いコンパウンド】ではありません。
最終用途に必要な性能を満たしているかを確認する事が重要です。
■相溶化剤の選定は【試作】が非常に重要
〇実際の材料開発では、カタログやメーカー資料だけで
相溶化剤を決定するのは難しいケースがあります。
同じPPでもグレードによって、
- MFR
- 分子量
- 添加剤
- 結晶性
- 極性
- 熱安定性
等が異なります。
その為、樹脂A+樹脂B+相溶化剤
という組み合わせを実勢にコンパウンドし、
【分散状態→押出状態→ペレット状態→成形状態→最終物性】
まで確認する事が重要です。
特に新規材料の開発では、小ロットで複数条件を比較する
試作が有効です。
■相溶化剤の選定でよくある失敗
失敗① 【とりあえず添加量を増やす)
〇相溶化剤を増やせば必ず良くなるわけではありません。
まずは少量から条件を振り、効果を確認します。
失敗② 【相溶化剤だけを変える】
〇混練温度やスクリュー構成などが適切でなければ、相溶化剤の
性能を十分に引き出せない場合があります。
失敗③ 【見た目だけで判断する】
〇ペレットがきれいでも、最終成形品強度や耐久性が
不足している可能性があります。
失敗④ 【樹脂の組み合わせだけで判断する】
〇同じ樹脂の組み合わせでも、グレードや配合量によって
結果は変わります。
■相溶化剤っを使ったコンパウンド試作で確認したい事
〇実際に試作を行う場合は、例えば以下のような条件で
比較すると効果を確認しやすくなります。
| 条件 | 樹脂A | 樹脂B | 相溶化剤 |
| ① | 80% | 20% | 0% |
| ② | 78% | 20% | 2% |
| ③ | 75% | 20% | 5% |
| ④ | 70% | 20% | 10% |
※実際の添加量は材料・用途・相溶化剤の種類によって調整します。
このように条件を変えながら、トルク・吐出量・押出安定性
ペレット状態・分散状態・成型品物性 等を比較する事で
適切な添加量や混練条件を探していきます。
■相溶化剤は【材料設計】の重要な選択肢
〇樹脂コンパウンドでは、
【樹脂を選ぶ→配合を決める→相溶性を確認する→相溶化剤を検討する
→混練条件を最適化する→物性を評価する】
という流れで材料設計を進める事が重要です。
相溶化剤は、単なる【添加剤】ではなく、異なる材料を
組み合わせて新しい性能を引き出す為の材料設計ツール
として考える事が出来ます。
特に、
- 再生材の利用
- 異種樹脂のブレンド
- バイオマス材料
- エラストマー改質
- フィラー高充填材料
- 多層フィルム
- 高機能コンパウンド
等では、相溶性・分散性・界面制御が重要になります。
■まとめ
〇相溶化剤とは、相溶性の低い樹脂や異なる材料の界面に作用し、
混練系の分散状態や界面特性を改善する為に使用される材料です。
樹脂コンパウンドでは、相溶化剤を適切に使用する事で、
- 樹脂同士の界面状態の改善
- 分散性の向上
- 機械物性の改善
- 剥離の抑制
- 外観不良の改善
- コンパウンド材料の安定化
等が期待できます。
ただし、【相溶化剤を入れれば必ず良くなる】というわけでは
ありません。
重要なのは、
【樹脂の組み合わせ】
【相溶化剤の種類】
【添加量】
【混練条件】
【最終用途】
を総合的に考える事です。
相溶性に問題がある材料をコンパウンドする場合には
材料選定だけでなく、実際の二軸混練機による試作を行い
分散状態・押出状態・物性を確認しながら最適な条件を
探る事が重要です。
相溶性の改善は、樹脂コンパウドの品質を左右する重要なポイントです。
